相続税の10年ルールとは?海外移住でも国外財産に日本の相続税がかかる条件

「海外に10年住めば、日本の相続税はかからなくなるんですよね?」——マレーシア移住のご相談で、資産をお持ちの方から必ずといってよいほどいただく質問です。かつて「5年」だったこの年数は、平成29年の改正により、2017年4月1日以後の相続・贈与から10年になりました。ただ、実務で本当に大切なのは年数そのものではありません。誰が海外に住んでいるか、そして財産がどこにあるかで、答えが大きく変わるからです。

この記事では、相続税の10年ルールの正確な中身と、海外移住した場合に国外財産がどう扱われるかを、日本の制度の一般的な解説として整理します(2026年8月時点の法令等に基づきます)。個別のケースの判定は事実関係で結論が変わるため、最終的には日本の税理士など専門家にご確認ください。

この記事の結論

  • 国外財産が課税対象から外れるのは、財産を遺す方と相続する方の双方が相続開始前10年以内に日本に住所を持たない場合だけ。
  • 日本国内にある財産は、居住年数にかかわらず課税対象のまま。
  • マレーシアに相続税はない(2026年8月時点)が、日本側の課税と現地の相続手続きは残る。
テーブルで書類を確認する二人(相続の準備のイメージ)
目次

相続税の課税範囲は「住所」と「財産の所在」で決まる

無制限納税義務者と制限納税義務者の違い

日本の相続税で課税される財産の範囲は、財産を遺す人(被相続人)と相続する人(相続人)の双方の状況によって変わります。大づかみに言えば区分は2つです。

  • 無制限納税義務者:日本国内・国外を問わずすべての財産が課税対象
  • 制限納税義務者:日本国内にある財産だけが課税対象

海外在住でも、多くの日本人は「例外」に当たる

外国に住んでいる相続人は、原則としては国内財産だけが課税対象です。ところが、この「原則」には大きな例外があり、多くの日本人移住者はまず例外のほうに該当します。その例外の線引きこそが10年ルールです。

相続税の10年ルールの正確な中身

国外財産まで課税対象になるのはどんなときか

日本国籍を持つ相続人の場合、次のいずれかに当てはまるときです(外部サイト: 国税庁 No.4138「相続人が外国に居住しているとき」)。

  1. 相続人本人が、相続開始前10年以内に日本国内に住所を持ったことがある
  2. 本人は10年超海外でも、財産を遺す方(被相続人)が日本に住所を持っている、または10年以内に持っていた

「自分が10年」ではなく「双方が10年」

国外財産が課税対象から外れるのは、亡くなる方と相続する方の「双方」が、相続開始前10年以内のどの時点でも日本に住所を持っていない場合に限られます。「自分が10年住めばよい」のではなく、財産を遺す側の住所も同じだけ問われる——ここが最も誤解の多いポイントです。

財産を遺す方が外国籍の場合(在留資格で日本に住んでいる場合など)は、令和3年度の改正などにより取扱いが変わります。ご家族に外国籍の方が含まれる場合は、個別に確認が必要です。

海外移住後の相続税を3つの典型パターンで整理する

青空の下の日本の町並みと川(日本国内に残る財産のイメージ)

類型A・B・C ― 課税範囲の早見表

制度からの帰結を、よくあるご家族の形に当てはめると次のようになります。類型A=ご本人だけ移住、類型B=家族で移住して10年未満、類型C=家族で移住して10年超の3つです(いずれも財産を遺す方・相続する方とも日本国籍という前提の一般的な類型です)。

類型財産を遺す方(例: 親)相続する方(例: 本人)国外財産国内財産
類型A日本在住海外在住(年数不問)課税対象課税対象
類型B海外在住(出国から10年未満)海外在住課税対象課税対象
類型C海外在住10年超海外在住10年超課税対象外課税対象

見落とされやすいのは類型A(親が日本在住のケース)

類型Aが示すとおり、ご本人がマレーシアに何年住んでも、ご両親が日本にお住まいであれば、相続時には国外財産を含む全世界の財産が日本の相続税の対象です。
移住プランは、ご自身の年数だけでなく世代をまたいだ家族全体の設計として考える必要があります。

10年たっても、日本国内の財産には課税が残る

類型Cのように双方が10年を超えても、日本国内にある財産は引き続き課税対象です。国内の不動産、国内銀行の預金、日本法人の株式などは、居住年数にかかわらず日本の相続税の対象になります。
「10年で相続税と完全に無関係になる」わけではなく、変わるのは国外財産の扱いだけ、と理解しておくのが正確です。

この制度の「住所」は住民票ではなく生活の本拠

この制度でいう「住所」は、住民票の所在地ではなく生活の本拠を指し、住居・職業・資産・家族の居住状況といった客観的な事実で実質的に判定されます。住民票を抜いて形式を整えても、生活の実態が日本にあると判断されれば、日本に住所があるものとして扱われる可能性があります。この考え方は所得税の居住者判定とも共通するので、詳しくは非居住者になる条件の記事をご覧ください。

贈与税も同じ「10年」の枠組み

「相続まで待たず、移住してから生前贈与すればよいのでは」と考える方もいらっしゃいますが、贈与税にも相続税と同じ枠組みが置かれています(外部サイト: 国税庁 No.4432「受贈者が外国に居住しているとき」)。贈与する側・受け取る側の双方の住所と10年の要件で課税範囲が決まるため、移住直後の生前贈与では国外財産への課税は外れません。そもそも平成29年改正で5年が10年に延びた背景には、こうした「海外に数年住んでからの贈与」による租税回避を防ぐ趣旨がありました。

出国税(国外転出時課税)とは別の制度

対象は「1億円以上」かつ「出国前10年以内に国内居住5年超」

資産をお持ちの方が移住前に確認すべき制度として、出国税(国外転出時課税)もあります。こちらは、対象資産(株式など有価証券等)の時価合計が1億円以上で、かつ出国前10年以内の国内居住期間が合計5年を超える方が日本から転出する際に、含み益に所得税が課される制度です(両方の要件を満たす方が対象です)。

10年ルールと出国税は分けて確認する

10年ルールが「相続・贈与のときに、どの範囲の財産が対象になるか」の話であるのに対し、出国税は「出国のタイミングで、株式等の含み益にかかる」話です。税目もタイミングも別なので、移住の設計ではこの2つを分けて確認します。

移住前に押さえる国外財産調書(5,000万円超)

日本の居住者である間は、一定額を超える国外財産について国外財産調書を提出する義務があります。制度の要点は次のとおりです(外部サイト: 国税庁 No.7456「国外財産調書の提出義務」)。

  • 対象者:日本の居住者(非永住者を除く)。非居住者になれば対象外
  • 基準:その年12月31日時点で、国外財産の合計額が5,000万円超
  • 期限:翌年6月30日まで
  • 効果:提出していれば加算税が軽減され、不提出・記載漏れには加重や罰則がある

相続税の10年ルールとは別の制度ですが、海外に資産を持つ移住準備期に関わりやすいため、あわせて押さえておきたい義務です。

マレーシア側に相続税はない ― ただし手続きは残る

一方のマレーシアには、2026年8月時点で相続税・遺産税・贈与税がありません(1991年に遺産税が廃止されて以降、死亡時の財産課税は置かれていません)。ただし2つ、注意があります。

動かすにはプロベイト(遺産管理手続き)が要る

第一に、税金がなくても相続の手続きは別です。マレーシアの資産は、プロベイト(裁判所の遺産管理手続き)を経ないと動かせず、通常でも半年から1年かかります。詳しくはマレーシアのプロベイトの記事で解説しています。

「今後もゼロ」とは限らない ― 再導入論も出ている

第二に、マレーシアでも相続税の再導入論が予算編成の時期に話題に上ることがあり、「今後も恒久的にゼロ」と決めてかかるのは禁物です。

日本側の課税確認とセットで生前の準備を進める

だからこそ、生前のエステートプランニング——資産の一覧化、マレーシアでの遺言(Will)作成、必要に応じた信託——を、日本側の課税関係の確認とセットで進めておくことが、家族に負担を残さない準備になります。

よくある質問

Q. 私がマレーシアに10年住めば、日本の相続税はかからなくなりますか?

ご本人の年数だけでは決まりません。国外財産が課税対象から外れるのは、財産を遺す方と相続する方の双方が相続開始前10年以内に日本に住所を持たない場合です。たとえばご両親が日本にお住まいなら、ご本人が何年海外にいても、相続時には国外財産を含む全世界の財産が課税対象になります。

Q. 10年を超えれば、相続税は一切かからなくなりますか?

いいえ。課税対象外になるのは国外財産だけで、日本国内にある不動産・預金・日本法人の株式などは、居住年数にかかわらず課税対象のままです。

Q. 住民票を抜いていれば「日本に住所がない」ことになりますか?

住民票は判断材料のひとつにすぎません。税務上の住所は生活の本拠がどこかという実質で判定されるため、生活の実態が日本にあれば、住民票を抜いていても日本に住所があるものとして扱われることがあります。

Q. 移住してすぐ、海外の財産を子どもに生前贈与すれば課税を避けられますか?

贈与税にも相続税と同じ10年の枠組みがあるため、移住直後の贈与では国外財産への課税は外れません。むしろこうした手法を防ぐことが、5年から10年へ延長された改正の趣旨です。

Q. 家族全員で移住した場合、何から確認すべきですか?

一般論としては、(1)財産を遺す側・受け取る側それぞれの住所と出国からの年数、(2)財産の所在(国内か国外か)、(3)出国税の対象資産の有無、の3点を分けて確認する形になります。実際の判定は国籍・在留資格・財産の種類などの個別事情で変わるため、具体的な検討は日本の税理士にご相談ください。

Q. マレーシアに相続税がないなら、資産はマレーシアに移したほうが得ですか?

課税の有無だけで資産の置き場所を決めるのはおすすめしません。ご家族の住所構成によっては日本側の課税が残りますし(類型A・B)、資産の移転自体に出国税や贈与税の論点が生じることもあります。手数料・為替・相続手続きの負担まで含めた全体設計の問題として、専門家を交えてご検討ください。

まとめ ― 相続税の10年ルールは「家族と財産の地図」で考える

相続税の10年ルールは、海外移住して「10年住めば安心」という単純な話ではなく、誰が・どこに・いつから住み、財産がどこにあるかという家族全体の地図で決まる制度です。マレーシア側に相続税がなくても、日本側の課税と現地の相続手続きは残ります。

当事務所では、マレーシア側の資産管理・プロベイト対応・エステートプランニングをサポートするとともに、日本側の相続税務については、確認すべき論点の整理と提携する日本の税理士のご紹介までお手伝いしています。日本側・マレーシア側の両面から、ご家族の状況に合わせた準備を組み立てられますので、お問い合わせページからお気軽にご相談ください。

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参考(一次情報)

本記事は2026年8月時点の法令・公表情報(国税庁タックスアンサーは令和7年4月1日現在法令等、国外財産調書は令和7年6月1日現在法令等)に基づく一般的な解説です。
税制は改正されることがあり、個別の課税判定は事実関係により異なります。具体的なご検討は日本の税理士等の専門家にご確認ください。

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