マレーシア就労ビザ(EP)の条件とは?取得の難しさとラブアン法人の枠組み

「マレーシアに法人を作れば、就労ビザも取れますよね?」——法人設立のご相談で、ほぼ必ずセットでいただく質問です。答えは「要件を整えれば道はあるが、自動ではない」。マレーシアの就労ビザ(Employment Pass、以下EP)は本人が申請するものではなく、会社が従業員のために申請するもので、しかも会社側に資格要件があり、基準を満たしても最後は当局の個別審査だからです。

この記事では、マレーシア本土の法人(Sdn Bhd)で日本人にEPを出すための条件と、実務でつまずきやすいポイント、そしてもうひとつの枠組みであるラブアン法人の就労許可を、2026年8月時点の制度に基づいて整理します。

この記事の要点

  • EPは会社が申請するビザ。会社側の資格(ESD登録・払込資本)が入口になる。
  • 2026年6月から給与基準が引き上げられ、新規・更新の両方に適用される。
  • 基準を満たしても自動承認ではなく、「なぜ外国人が必要か」の説明が審査の中心になる。
  • ラブアン法人には別枠組みの就労許可があり、給与や資本金の考え方が異なる。
青空の下のクアラルンプールの高層ビル群(マレーシアで働くイメージ)
目次

マレーシアの就労ビザ(Employment Pass)は「会社が出す」ビザ

EP申請の流れ ― ESD登録からポジション承認まで

EPは、マレーシアの会社が「このポジションには外国人が必要だ」と当局に説明し、承認を得て初めて発給されるビザです。手順としては、まず会社が自社の会社情報(登記内容・払込資本・事業内容など)を移民局のESD(Expatriate Services Division)に登録して「外国人を雇える会社」としての承認を受け、次に外国人を雇うポジションの承認を受け、そのうえで個人のEP申請に進みます。

審査は「会社の資格」と「本人の妥当性」の二層

EPの審査は二層構造です。会社の資格(資本金・業種・実体)と、ポジションと本人の妥当性(給与・学歴・職務内容)。「本人が優秀かどうか」の前に、会社側の資格が整っているかが問われる——ここが、個人で申請できる観光ビザやMM2Hなどの長期滞在ビザとの根本的な違いです。

会社側の入口:ESD登録と払込資本

出資構成で変わる最低払込資本

ESD登録には、出資構成に応じた最低払込資本が求められます(2026年8月時点の運用。以下、円換算は2026年8月時点のおおよその為替レート=1リンギット≒40円・1米ドル≒160円で計算した参考値を併記します)。

  • 100%ローカル資本:RM25万(約1,000万円)
  • ローカルとの合弁:RM35万(約1,400万円)
  • 外資51%以上:RM50万(約2,000万円)
  • 外資で卸売・小売・貿易(WRT該当業種):RM100万(約4,000万円)(+WRTライセンス)

日本人100%出資はRM50万から(WRT業種は100万)

日本人オーナーが100%出資するSdn Bhdなら、原則としてRM50万=約2,000万円(業種によってはRM100万=約4,000万円)の払込資本が入口になります。この資本金は納付金として消えるお金ではなく、株式資本として会社の口座に入ります。

2026年6月にEP給与基準が上がった

EPのカテゴリ別・最低給与と在留期間

EPには給与によるカテゴリ区分があり、2026年6月1日以降に提出される申請(新規・更新とも)から基準が引き上げられました。

カテゴリと最低基本給(月額)通算の在留期間上限
カテゴリIRM20,000以上=約80万円〜(旧RM10,000最長10
カテゴリIIRM10,000〜19,999=約40万〜80万円(旧RM5,000〜9,999最長10
カテゴリIIIRM5,000〜9,999=約20万〜40万円(旧RM3,000〜4,999最長5

注意したいのは2点です。
第一に、判定は基本給のみで行われ、住宅手当や現物給与は算入されません。
第二に、更新にも新基準が適用されるため、旧基準で取得した方も次回更新時には新しい給与水準を満たす必要があります。
なお、カテゴリの判定はリンギット建ての基本給で行われます。円換算はあくまで規模感の目安です。

役員報酬・給与の設計を先に固めてから申請に進む、という順序が以前にも増して大切になりました(外部サイト: ESD公式アナウンス(2026年EP給与ポリシー))。

なお、本人側では給与のほかに学歴・実務経験も見られます。一般に「学士号+実務経験3年以上」「ディプロマ+5年以上」などが目安とされ、ポジションが管理職・専門職・技術職であることが求められます。

基準を満たしても「自動承認」ではない

電卓・眼鏡・グラフが置かれた明るいデスク(申請書類の準備のイメージ)

通らない理由は「求人公告」と「ポジション承認の裁量」

ご相談で多いのは、「数字はクリアしているのに時間がかかる・通らない」というケースです。背景には、次のような審査の仕組みがあります。

  • 求人公告:申請前に国家求人ポータルMYFutureJobsで原則14日間の求人公告が必要(経営中枢のKey Postや基本給RM15,000=約60万円以上のポジションなどは免除)
  • ポジション承認の裁量:何名分のEPを認めるかは、業種・資本金・事業計画・ローカル雇用とのバランスを見た当局の個別審査
  • 却下されやすい類型:書類の不備や記載の齟齬、職務内容とカテゴリ・経歴の不整合、「なぜこのポジションに外国人が必要か」の説明不足、会社側の資格不備

処理期間の目安

処理は書類完備後5営業日が目標とされていますが、初めてEPを出す会社ではESD登録から数えると数ヶ月かかる例もあります。

「基準クリア=発給」ではなく、事業計画と組織の説明までが審査の対象——これがEPの「難しさ」の正体です。

ラブアン法人の就労許可という選択肢

本土EPとの5つの違い

マレーシアには、本土のSdn Bhdとは別に、ラブアン法人という国際ビジネス向けの法人形態があり、就労許可もLabuan FSA(ラブアン金融サービス庁)の推薦を経てラブアン移民局が発給するという独自の枠組みを持っています。本土EPとの主な違いは次のとおりです(2026年8月時点)。

  • 最低給与は月RM10,000(約40万円)。しかも本土EPと違い、基本給に加えて手当・現物給与まで含めて判定できます。2026年6月の本土EP改定後も、FSAの通達に基づきこの基準は据え置かれていると解説されています(新しい基準のカテゴリIIレンジに収まるためです)
  • 資本金のハードルが低い。ラブアン法人は設立自体に高額な最低資本金の定めがなく、就労許可を見据えた実務では払込資本をUSD30,000(約480万円)程度に設定する形が一般的です。本土の外資Sdn BhdのRM50万〜100万(約2,000万〜4,000万円)より低い水準です
  • 対象ポジションは取締役等の経営層・専門職・技術職。オーナー自身が取締役として取得するのが典型的なパターンです
  • 許可は2年間有効のマルチプルエントリー(有効期間中は何度でも出入国可)で、2年ごとに更新。配偶者・子ども・親の帯同ビザの申請も可能です
  • 人数について規則上の明文上限はなく、事業実体とポジションの妥当性に応じた個別審査です。実務上は1社あたり2名程度がひとつの目安とされており、取締役2名体制(たとえばご夫婦やビジネスパートナー)で2名分の就労許可を申請する形が一般的です

なお、資本金の水準は法令で定められた基準額ではなく、実務上の目安です。Labuan FSAの旧資料にはRM25万(約1,000万円)とする記載も残っていますが、現行の就労許可ガイドライン(2019年発効)に払込資本の明文要件はなく、私たちが関与した近年の設立案件でも先述の水準で運用されています。資本金の額だけで就労許可の可否が決まるものではありません。

審査が緩いわけではない ― 二段階審査と実体要件

ただし、緩い制度という意味ではありません。求人公告がない代わりに、事業計画書・実在するオフィス(バーチャルオフィス不可)・適格性審査(fit and proper)が求められ、Labuan FSAと移民局の二段階審査を通ります。
移民局の承認が下りるまで申請者は国外で待機する運用のため、実務では全体で数ヶ月程度かかる例があります。

本土EPとラブアン就労許可の比較

項目本土Sdn BhdEPラブアン法人の就労許可
払込資本外資51%以上はRM50万=約2,000万円(WRT業種RM100万=約4,000万円)実務はUSD3万=約480万円程度(法令上の明文要件なし・目安)
最低給与基本給のみでRM5,000〜20,000以上=約20万〜80万円(カテゴリ別)RM10,000=約40万円(手当・現物給与込みで判定可)
求人公告MYFutureJobs公告14日(免除条件あり)なし(事業計画・実体・適格性審査)
発給期間契約期間等により通常1〜5年(更新制)2年・マルチプル(更新制)
通算上限カテゴリIIIは最長10年/IIIは最長5年(20266月新設)明文の通算上限なし(更新審査による)
人数ポジションごとに当局の裁量審査明文上限なし・個別審査(実務目安は2名程度)
審査の力点給与・経歴・ローカル雇用とのバランス事業実体・オフィス・適格性

「どちらの法人にするか」はビザだけでは決まらない

比較表だけを見ると、給与の判定ベースや資本金の面でラブアンに目が行くかもしれません。ただ、器の選択はビザ単独では決められません。

事業の制約と税制、日本側のCFC税制まで含めて考える

ラブアン法人には営める事業への制約があり、マレーシア国内市場向けのビジネスであれば本土のSdn Bhdが基本です。税制も、ラブアン法人と本土法人では仕組みが異なり、ラブアン法人の優遇税率は実体要件を満たすことが前提です。加えて、日本の居住者・法人が株主となる場合は日本側のCFC税制(外国子会社合算税制)の検討も別途必要です。

よくある質問

Q. マレーシアに会社を作れば、必ず就労ビザは取れますか?

いいえ。EPは会社の資格(ESD登録・払込資本)とポジション・本人の妥当性を個別に審査する仕組みで、基準を満たしても自動承認ではありません。ラブアン法人の就労許可も同様に、Labuan FSAと移民局の二段階審査があります。「必ず取れる」制度はない前提で、審査に耐える事業計画と書類を準備することが実質的な近道です。

Q. 2026年6月の給与基準引き上げは、今ビザを持っている人にも影響しますか?

はい。改定基準は2026年6月1日以降に提出される新規・更新の両方の申請に適用されます。旧基準で取得した方も、次の更新時には新しい基準で判定されるため、更新時期から逆算した報酬設計の見直しをおすすめします。

Q. ラブアン法人の就労許可は何名まで取れますか?

規則上の明文の上限はなく、事業実体とポジションの妥当性に応じた個別審査です。実務上は1社あたり2名程度がひとつの目安とされることが多く、それを超える場合は事業規模や実体の説明がより重要になります。

Q. ラブアンの就労許可で、家族も一緒に住めますか?

配偶者・子どものDependent Pass(帯同ビザ)と、親の帯同ビザを申請できます。帯同者の要件や年齢の扱いは運用によるため、申請時点での確認をおすすめします。

Q. 給与を高く設定すれば審査に有利ですか?

給与基準はあくまで入口の要件で、高くすれば通るというものではありません。むしろ職務内容・経歴と釣り合わない給与設定は、記載の整合性の面でマイナスに働き得ます。審査では、ポジションの必要性を含めた全体の整合が見られます。

Q. 就労ビザが取れたら、日本の税金はどうなりますか?

ビザの取得と税務上の「非居住者」判定は別の話です。日本の居住者・非居住者は滞在日数だけでなく生活の本拠で判定されます。詳しくは非居住者になる条件の記事で整理しています。個別の居住者判定や日本側の申告については、提携する日本の税理士のご紹介を含めてご案内します。

まとめ ― マレーシアの就労ビザは「制度選び」ではなく「設計」

マレーシアで日本人に就労ビザを出す道は、大きく本土Sdn BhdのEP(Employment Pass)とラブアン法人の就労許可の2つ。前者は2026年6月の基準引き上げで給与設計の重要度が増し、後者は給与判定の柔軟さと引き換えに事業実体の審査が力点になります。共通するのは、書類の数字合わせではなく、事業の中身から組み立てた説明こそが審査を通る鍵になるということです。

当事務所では、法人の形の選択(Sdn Bhd/ラブアン法人)から設立までをサポートし、就労ビザ申請は信託会社など提携先と連携して段取りと窓口を整理、その後の会計・税務まで一貫して伴走します。日本側の税務が絡む論点は、提携する日本の税理士のご紹介まで含めて、両面から移住・進出の設計を組み立てられます。ご相談はマレーシア移住・ビザ取得サポートのページから承っています。

参考(一次情報)

本記事は2026年8月時点の制度・公表情報に基づく一般的な解説です。
基準・運用は変更されることがあり、個別の申請可否は当局の審査によります。最新の要件は申請時点で必ずご確認ください。
本文中の円換算額は1リンギット≒40円・1米ドル≒160円(2026年8月時点)で計算した参考値です。実際の金額は為替相場により変動します。

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