EPF・SOCSO・EISとは ― マレーシアの給与計算で必須となる社会保障制度の基本 ―

マレーシアで法人を設立し、いよいよ従業員を採用するフェーズに入ると、多くの日本人経営者が最初に直面するのが「給与計算の複雑さ」です。

日本では、給与から天引きされる社会保険・雇用保険の仕組みはある程度なじみがあるでしょう。しかしマレーシアでは、それとは体系が異なる3つの制度が存在し、従業員を雇用するすべての雇用主に対して法定義務として課されています。

その3つが、EPF(雇用者積立基金)・SOCSO(社会保障機構)・EIS(雇用保険制度) です。

「採用してから対応すればいい」「少人数だからまだ関係ない」と思いがちですが、これらは従業員を雇った瞬間から発生する義務であり、対応が遅れると罰則・延滞利息・行政処分のリスクが生じます。本コラムでは、この3制度の概要・計算の考え方・登録手続き・申告期限・外国人従業員の扱いまでを、実務に即した形で整理します。


目次

EPF・SOCSO・EISは「セットで理解する」制度

まず、3つの制度を個別に覚えようとする前に、全体の構造を把握することが重要です。

EPF(Employees Provident Fund / KWSP / 雇用者積立基金) は、老後の生活保障を目的とした強制積立制度です。日本の厚生年金に近い位置づけで、雇用主・従業員の双方が毎月一定額を積み立てます。積み立てられた資金は各個人のEPFアカウントで管理され、退職後や一定の条件を満たした場合に引き出すことができます。

SOCSO(Social Security Organisation / PERKESO / 社会保障機構) は、業務上の事故・職業病・障害・死亡などに対して補償を行う社会保障制度です。日本の労災保険に近い制度ですが、対象範囲や運営の仕組みは異なります。雇用主・従業員の双方が拠出します。

EIS(Employment Insurance System / 雇用保険制度) は、2018年に導入された比較的新しい制度で、失業した従業員に対して一時的な収入補助(失業給付)や再就職支援を行う制度です。日本の雇用保険に近い位置づけで、こちらも雇用主・従業員の双方が拠出します。

この3制度に共通する重要なポイントは、「雇用主が従業員分も含めて計算・拠出・申告を行う義務を負う」 という点です。従業員が自分で手続きするわけではなく、毎月の給与計算の中で雇用主側が処理しなければなりません。マレーシア法人(Sdn. Bhd.)はもちろん、ラブアン法人においてもマレーシア国内で従業員を雇用している場合には、同様にこれらの制度への対応が必要になります。


EPF(雇用者積立基金):老後のための強制積立

拠出率の考え方

EPFの拠出率は、雇用主側と従業員側に分かれており、従業員の年齢・国籍・給与水準によって異なります。一般的な目安として、雇用主は従業員給与の12〜13%程度、従業員は給与の11%程度を拠出します。ただし、55歳以上の従業員については拠出率が引き下げられる仕組みがあり、対象年齢ごとに異なる率が設定されています。

実際の計算では、「何%を掛ける」という単純な掛け算ではなく、EPFが公表する拠出表(Contribution Table)を参照して、給与額ごとに定められた拠出額を確認する という運用が求められます。この点は日本の感覚とは大きく異なる部分です。給与帯ごとに雇用主・従業員それぞれの拠出額が細かく定められているため、実務では拠出表の正確な読み取りが不可欠です。

申告・納付期限

EPFへの拠出は、当該月の翌月15日まで に行う必要があります。たとえば、1月分の給与に対するEPF拠出は、2月15日が期限です。期限を過ぎると延滞利息が発生するため、毎月のスケジュール管理が非常に重要です。


SOCSO(社会保障機構):業務上のリスクに備える制度

2つのスキームと対象範囲

SOCSOには、2つのスキームが存在します。

ひとつ目の 雇用傷害保険スキーム(Employment Injury Scheme) は、業務中・通勤中の事故や職業病による傷害・死亡を補償する制度です。ふたつ目の 障害年金スキーム(Invalidity Pension Scheme) は、業務外の疾病・障害・死亡に対する補償で、60歳未満の従業員が対象となります。

60歳以上の従業員については、雇用傷害保険スキームのみの対象となり、障害年金スキームへの拠出は不要です。この年齢区分は実務上の計算に直接影響するため、特に中高年のスタッフを採用する場合には確認が必要です。

拠出率の考え方と上限額

SOCSOには、拠出の計算対象となる給与に上限額が設けられています。 上限を超える給与部分については拠出計算の対象外となり、一定額以上を稼ぐ従業員については上限額ベースで計算します。

拠出率の目安として、雇用主側は給与の約1.75%、従業員側は給与の約0.5%ですが、EPFと同様にPERKESOが定める「拠出表(Contribution Table)」に基づいた計算が求められます。適用される拠出額は最新の拠出表で必ず確認してください。

申告・納付期限

SOCSOの拠出もEPFと同様、当該月の翌月15日 が期限です。申告・納付はPERKESOのオンラインポータルから行います。


EIS(雇用保険制度):失業時のセーフティネット

制度の概要

EISは2018年に施行された制度で、失業した従業員が再就職するまでの間、一定期間の収入補助と職業訓練・再就職支援を受けられる仕組みです。対象はマレーシア国籍者およびPR(永住権)保有者に限られており、外国人従業員はEISの対象外となります。

給付を受けるためには一定期間のEIS拠出実績が必要であり、あくまで加入者が将来の失業リスクに備えるための制度として設計されています。日本で言えば雇用保険の基本手当(失業給付)に近い位置づけですが、給付期間や給付額の計算方法は異なります。

拠出率の考え方と上限額

EISにも、SOCSOと同様に拠出対象給与の上限額が設定されています。雇用主・従業員それぞれの拠出率は給与の0.2%ずつ(合計0.4%)であり、拠出対象給与の上限は現在RM6,000です。したがって、給与がこの上限額を超える場合には、RM6,000を基準として拠出額を計算します。

EISの拠出額も法定の拠出表に基づいて算定され、実務上はSOCSOとあわせてPERKESOのポータルから申告・納付するのが一般的です。

申告・納付期限

EISはSOCSOと同時に申告・納付します。期限は翌月15日で、SOCSOとEISをまとめてPERKESOポータルで処理することができます。


外国人従業員・日本人スタッフを採用する場合の注意点

マレーシアで事業を展開する日本人経営者の多くは、日本人スタッフや外国籍の従業員を採用するケースがあります。この場合、3制度の扱いが通常とは異なる部分があるため、特別な注意が必要です。

EPFについては、従来、外国人従業員の加入は任意とされていましたが、2025年10月分給与以降は、有効なパスポートおよびマレーシア入国管理局が発行した就労パスを有する非マレーシア国籍従業員について、原則として加入・拠出が義務化されています。拠出率は、原則として雇用主2%・従業員2%です。なお、マレーシア永住権(PR)保有者についてはこの特則の対象ではなく、通常の拠出率が適用されます。日本人スタッフを採用する際には、就労パスの種類とEPFの適用関係を確認したうえで、オファーレターや雇用契約書に取扱いを明記しておくことが望ましいでしょう。

SOCSOについては、外国人従業員についても加入対応が必要です。PERKESOの現行案内では、外国人従業員は Employment Injury Scheme(雇用傷害保険スキーム)に加えて、Invalidity Scheme(障害年金スキーム)の対象にもなっています。特に、2024年7月1日以降は、外国人従業員についても Invalidity Scheme への対応が必要となっています。もっとも、適用区分は年齢や初回加入時点によって異なり、55歳未満で初めて加入する場合は第1カテゴリ、60歳以上や一定の場合は第2カテゴリが適用されます。したがって、就労ビザ(Employment Pass 等)を保有する外国人従業員を採用する際には、最新のPERKESO規定を確認したうえで対応することが重要です。

EISについては、外国人従業員は対象外 です。マレーシア国籍者およびPR保有者のみが対象となるため、外国籍スタッフについてはEISの拠出は不要です。

このように、外国人従業員を含む場合には制度ごとに対応が異なります。ラブアン法人を軸に事業を展開している場合でも、マレーシア国内で採用した従業員に対しては、法人形態にかかわらず同様の確認が必要です。採用前に各制度の適用可否を一度整理しておくことが、後のトラブルを防ぐ最善策です。


雇用主登録:採用前に必ず済ませておく手続き

EPF・SOCSO・EISのいずれについても、従業員を採用する前に雇用主として各機関への登録を完了させておく必要があります。

EPFの登録はKWSPポータル(i-Akaun Employer)、SOCSOとEISの登録はPERKESOポータルからそれぞれオンラインで申請できます。登録完了後に発行される雇用主番号(Employer Number)は毎月の申告に必要となるため、法人設立後・採用活動開始前に早めに取得しておくことが実務の基本です。

登録に必要な書類は、法人登録証明書(SSMの書類)・会社の登録住所・担当者情報等が基本ですが、最新の必要書類はポータル上でご確認ください。会社設立後、初めての採用が決まった段階で速やかに手続きを進めることをお勧めします。登録が間に合わなかった場合でも、遡って申告・拠出を行う義務が生じるため、「採用前に完了している状態」を原則として動くことが重要です。


月次給与計算の実務:何を・いつまでに・どう処理するか

月次の給与計算では、おおむね以下の流れで処理が進みます。

まず月末に当月の給与・手当・控除額を確定させます。そこからEPF・SOCSO・EISの各拠出表を参照し、雇用主・従業員それぞれの拠出額を計算します。従業員への支払い額は「総支給額から従業員負担分の拠出額と所得税源泉徴収額(MTCD / PCB)を差し引いた手取り額」となり、通常は月末から翌月初に支払います。そして翌月15日までに、EPFはKWSPポータルから、SOCSOとEISはPERKESOポータルからそれぞれ申告・納付を完了させます。

この一連の処理が毎月繰り返されます。1か月でも期限を過ぎると延滞利息が発生し、慢性的な遅延が続けば行政処分の対象にもなり得ます。なお、所得税の源泉徴収(MTCD / PCB)についても別途IRBへの申告が必要で、こちらも翌月15日が期限となっています。「毎月15日が締め切り」という感覚を軸に据えること が、給与計算実務における最重要の管理ポイントです。


ペイロール管理を外部委託する選択肢

月次の給与計算・拠出・申告は、一度仕組みを整えれば定型作業化していきます。しかし、制度改正・従業員数の変動・外国人スタッフの特殊対応・新制度への準備といった、判断を要する場面が定期的に発生します。

特に設立初期の法人や、経営者自身がオペレーションを兼務している法人においては、ペイロール業務を会計事務所に委託することが、コスト・リスクの両面から合理的な選択肢 です。毎月の申告期限の管理・拠出表の最新情報への追随・各ポータルへの申告処理を専門家に任せることで、経営者が本業に集中できる体制を整えることができます。

ラブアン法人は日本人経営者にとって税務・コスト面で大きなメリットがありますが、マレーシア国内にオフィスや従業員を置いている場合には、ペイロール管理が別途必要になります。法人の設立形態にかかわらず、人を雇う以上は給与計算の仕組みを整えることが前提です。事業の拡大とともにスタッフを増やすフェーズに入る前に、ペイロール管理の体制を早めに固めておくことが、長期的な運営の安定につながります。


まとめ|EPF・SOCSO・EISは「雇用と同時に始まる義務」

EPF・SOCSO・EISは、従業員を一人でも雇った瞬間から発生する法定義務です。「まだ少人数だから」「試用期間中だから」という理由で対応を先送りにすることは、罰則リスクと信頼リスクを同時に積み上げることに他なりません。

3制度は、それぞれ管轄機関・対象範囲・拠出率・外国人対応が異なります。特に日本人スタッフや外国籍従業員を採用する場合には、採用前に各制度の適用可否を確認し、雇用契約書への明記まで含めて整理しておくことが重要です。

マレーシアで人を採用する前に、まず雇用主登録を完了させ、月次の給与計算フローを正しく設計する。それが、コンプライアンスを守りながら継続できる法人運営の第一歩です。

「高すぎる日系」でも「不安なローカル」でもない選択肢を

弊社は、ローカル会計士の実務力日本語で伴走するジャパンデスクを組み合わせ、
無理なく継続できる形に落とし込みます。

「何をいつまでに提出すべきか、全体像が見えていない」
「今の会計処理や運用が正しいか確信がない」

IYOU会計事務所では、安全に・長く・実務として回る形で設計することを重視しています。

「相談するほどではないかも…」という段階でも問題ありません!
後で修正が難しい部分ほど、早めの確認が重要ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次