「移住したら、日本の住民税や年金はどうなるんですか」——マレーシア移住のご相談で、非居住者の判定と並んで必ず出てくるのが、この住民税・健康保険・年金の3点セットです。
結論からいえば、3つとも「移住すれば自動的に終わる」ものではなく、出国前の手続きと、出国のタイミングで結果が変わる制度です。この記事では、日本の制度の一般的な内容を公的機関の公表情報に基づいて整理します。個別のケースの取扱いは、お住まいの市区町村・年金事務所・税理士など日本の専門家にご確認ください。

全体像 ― 3つの制度は「住民票」との結びつきが違う
まず全体像です。海外へ移住する際、市区町村に転出届を出して住民票を抜くと、3つの制度はそれぞれ次のように動きます。
| 制度 | 住民票を抜くと | 出国前にやること |
|---|---|---|
| 住民税 | 翌年1月1日に住所がなければ翌年度分は課されない(出国する年の分は残る) | 一括納付か、納税管理人の届出 |
| 国民健康保険 | 国外転出により資格を失う(手続きは転出届と同時) | 脱退手続き+民間保険の検討 |
| 国民年金 | 強制加入から外れる(日本国籍なら任意加入できる) | 任意加入するかどうかを決める |
税は時期(1月1日)、保険は喪失への備え、年金は任意。「住民票を抜けば全部リセット」ではない——これが3つの制度に共通する出発点です。
順に見ていきます。
住民税 ― 翌年1月1日の居場所で決まる
基準は「翌年1月1日にどこにいるか」
個人住民税は、1月1日(賦課期日)に住所がある市区町村が、前年の所得に対して課税する仕組みです。この「1月1日」がすべての基準になります。
- 出国して翌年1月1日に日本に住所がない場合、前年(出国した年)の所得に対する住民税は課されません
- 逆に、1月1日時点で住民票が残っていれば、その直後に移住してもその年度分は課税されます
たとえば2026年12月に出国して、2027年1月1日を海外で迎えた場合、2026年の所得に対する住民税(2027年度分)は課されません。出国が2027年1月4日にずれると、1月1日時点では日本に住所があるため、2026年の所得に対する住民税を納めることになります。なお、いずれの場合も、2026年度分(2025年の所得に対する分)の住民税は残ります。また、この判定は住民票の有無だけでなく、1月1日時点で生活の本拠が実際にどこにあるかも踏まえて見られるため、家族や住まいを日本に残す場合は取扱いが変わり得ます。
出国日が年末年始にかかる場合、数日の違いで翌年度分(1年度分)の住民税の有無が分かれます。ただし判定は実態も見られ、渡航や就労、ビザの条件も絡みます。日程はタイミングだけで決めず、市区町村や日本の税理士に確認したうえで組むのが安全です。
出国する年の分は残る——残額の納め方は2通り
注意したいのは、出国する年の住民税(前年の所得に対する分)は消えないことです。住民税は前年の所得に対して翌年度に納める仕組みのため(給与天引きの場合は6月から翌年5月)、年の途中で出国すると未納付分が残ります。この残額の納め方には、出国前の一括納付と納税管理人経由での納付の2つがあります。「一括で納める」の中身は、納め方によって変わります。
- 給与から天引き(特別徴収)されている方——退職時に勤務先へ申し出て、最後の給与や退職金から残りの額をまとめて天引きしてもらいます(一括徴収)。1月1日から4月30日までの間に給与の支払いがなくなる場合は、申し出がなくても原則として一括徴収されます。給与や退職金が残額に足りないときは、納付書で納める普通徴収に切り替わります
- 納付書で納めている(普通徴収)の方——お住まいの市区町村に出国することを伝え、残りの期別分の納付書を受け取り、出国前にまとめて納めます
もう一方の納税管理人は、本人に代わって納税通知の受け取りや納付をしてもらう人を、市区町村に届け出る仕組みです。納税管理人になれるのは、原則としてその市区町村の条例で定める地域内(同じ市区町村内など)に住所や事務所のある方で、親族に依頼するケースが多く、税理士等の専門家に依頼することもできます。地域外の方を選ぶ場合は市区町村長の承認が必要です。要件は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村にご確認ください。
なお、出国により市区町村内に住所がなくなる場合、納税管理人の申告は地方税法上の義務とされています(徴収の確保に支障がないと認められた場合を除く)。出国前に全額を納めていても、翌年度分の課税が見込まれるときは届出を求める自治体があり、届出のないまま出国すると納税通知書が届かず、延滞金などの対象になることがあります(外部サイト: 東京都中央区「国外転出するときの個人住民税の手続き」)。いずれの場合も、出国日が決まったら早めに手続きを始めるのが安全です。
所得税の確定申告とは別の手続き
ここまで見てきたのは住民税(市区町村に納める税金)の支払いの話で、所得税の確定申告とは別の手続きです。出国する年の所得税には、出国前に申告を済ませる方法(いわゆる準確定申告)や、納税管理人を通じて翌年に申告する方法があり、こちらは税務署側の手続きになります。納税管理人の届出も、所得税は税務署、住民税は市区町村と、別々に必要です。住民税は市区町村、所得税は税務署——窓口を分けて整理しておくと、出国前後に期限が集中しても混乱しません。
国民健康保険 ― 国外転出で資格を失う
脱退の手続きは転出届と同時に
国民健康保険は住民票と結びついた制度のため、海外転出届を出すと資格を失います。転出の際に脱退の手続きを行い、資格確認書など(お持ちの場合)を返却します。手続きは市区町村の窓口で、転出届と同時に行うのが一般的です。
移住後の医療は民間保険で備える
資格を失った後は、日本の公的医療保険で医療を受けることはできません。マレーシアで医療を受ける場合は原則全額自己負担となるため、民間の医療保険(現地保険・海外長期滞在者向け保険・駐在員保険など)で備えるのが一般的です。マレーシアの私立病院の医療費は日本より高額になるケースもあり、医療への備えは移住準備の重要項目です。備え方には、マレーシアの民間医療保険に現地で加入する、日本の保険会社の海外長期滞在者向け保険(海外生活者保険など)を使う、勤務先経由の駐在員保険でカバーする、といった選択肢があります。日本の保険は、住民票を抜いた方は加入・更新の対象外となる商品もあるため、引受条件を事前に確認してください。また、私立病院では入院時に保険会社の支払保証やデポジットを求められる場合があります(当事務所が現地でご案内している範囲での実務です)。「どの保険でどこまでカバーされるか」は移住前に確認しておくと安心です。
一時帰国のとき、日本の病院はどうなる?——住民票を戻さない限り公的医療保険の資格はないため、受診は原則全額自己負担です。短期の一時帰国に合わせて、滞在期間だけの医療保険を使う方もいます。
なお、帰国して住民票を戻せば、国民健康保険には再加入できます。勤務先の健康保険(協会けんぽ・組合健保)に加入している方の退職後の扱いは、加入先によって異なるため、勤務先または健康保険組合にご確認ください。
国民年金 ― 任意加入という選択肢がある

国民年金は、日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の人に加入義務がある制度です。海外転出届を出すと強制加入の対象から外れますが、ここで終わりではありません。
任意加入する——受給資格も年金額も守る
日本国籍の方は、海外在住中も国民年金に「任意加入」できます(20歳以上65歳未満。厚生年金等の加入者を除く)。任意加入を続けると、保険料を納めた期間がそのまま将来の年金額に反映され、受給資格期間(10年)にも数えられます。手続きは、これから出国する方はお住まいの市区町村窓口で行います。保険料は、日本国内の預貯金口座からの引き落としか、国内にいる親族などの協力者を通じた納付が選べます。任意加入は、途中でやめる(資格喪失の申出をする)こともできます(外部サイト: 日本年金機構「国民年金の任意加入の手続き」)。なお、任意加入中は保険料の免除や納付猶予の申請はできません。また、一時帰国などで短期間でも日本に住民登録をすると、その期間は通常の加入(強制加入)に戻り、改めて手続きが必要になります。
任意加入しない——受給資格は守られるが、額は増えない
任意加入しない場合でも、日本国籍の方の海外在住期間(20歳以上60歳未満)は「合算対象期間」として受給資格期間の計算に算入されます。ただし、この期間は年金額には反映されません。「受給資格は守られるが、年金額は増えない」という違いがあります。
任意加入して保険料を納めれば=受給資格も年金額も守る。加入しない=受給資格(10年)は合算対象期間で守られるが、年金額には反映されない——この違いが判断の軸になります。
どちらを選ぶかは、移住の期間・年齢・これまでの納付状況によって有利不利が変わり得ます。老後の設計に関わる判断なので、年金事務所やねんきんダイヤルでご自身の記録を確認したうえで決めることをおすすめします。
日本とマレーシアに社会保障協定はない
もうひとつ知っておきたいのが社会保障協定です。日本は2026年7月時点で24か国との間で協定が発効しており、協定国への赴任では「二重加入の防止」や「加入期間の通算」といった調整が受けられます(協定により内容は異なります)。アメリカ・ドイツ・フランスなど協定が発効している国への赴任と、そうでない国への移住では、年金まわりの考え方が変わります。なお、協定があっても、イギリス・韓国・中国・イタリアのように「加入期間の通算」の規定がない国もあります。
出国前の手続きチェックリスト
ここまでの内容を、出国前のやることリストとして時系列に並べます。
- 転出届を市区町村に提出する(転出予定日の14日前から届出可能なのが一般的)
- 同時に国民健康保険の脱退手続きを行い、資格確認書などを返却する
- 国民年金の任意加入をするかどうか決め、加入する場合は市区町村窓口で手続きする
- 住民税の残額の納め方と納税管理人の届出について、市区町村に確認する
- 医療について、民間の医療保険(現地・海外向け)への加入を検討する
- 株式など対象資産が1億円以上ある方は、出国税(国外転出時課税)の該当を確認する(詳しくは出国税の記事へ)
窓口を回る回数を減らすコツは、転出届を出す日に「国民健康保険の脱退」と「国民年金の任意加入の相談」をまとめて済ませることです。住民税の残額の相談も同じ日にできます(担当課は分かれるのが通常なので、窓口の場所は事前に確認を)。
住民税の項で見たとおり、出国が年をまたぐかどうかで翌年度分の住民税の有無が変わるため、移住時期を決める前に制度の全体像を確認しておくと、後から手続きで慌てずに済みます。個別の有利不利の判断は、市区町村や年金事務所、日本の税理士に確認してください。
よくある質問
Q. 住民票を抜けば、住民税は一切かからなくなりますか?
いいえ。出国する年の住民税(前年の所得に対する分)は残り、一括納付か納税管理人経由で納めます。かからなくなるのは、翌年1月1日に日本に住所がない場合の「翌年度分」からです。また、実態が日本にあると判断されれば取扱いが変わることがあります。
Q. 年の途中で出国した場合、その年の所得への住民税はどうなりますか?
翌年1月1日に日本に住所がなければ、その年の所得に対する住民税は課されません。同じ所得でも、翌年1月1日に日本に住所があるかどうかで課税の有無が分かれる仕組みです。ご自身のケースの取扱いは、お住まいの市区町村にご確認ください。
Q. 国民年金は払わなくてもよくなるのですか?
海外転出後は強制加入ではなくなるため、納付義務自体はなくなります。ただし任意加入しない期間は年金額に反映されず、将来の受取額が減ります。受給資格期間には「合算対象期間」として算入されるので、受給に必要な10年の資格期間が直ちに満たせなくなるわけではありません。
Q. マレーシアの病院で日本の保険証は使えますか?
使えません。海外転出後は日本の公的医療保険の資格を失うため、現地での医療費は原則自己負担です。民間の医療保険で備えるのが一般的です。
Q. 日本の年金は海外にいても受け取れますか?
受け取れます。海外の銀行口座や日本の口座への送金など受取方法の選択肢があり、現況届の提出などの手続きが必要です。詳細は日本年金機構にご確認ください。
まとめ ― 3つとも出国前に設計する制度
住民税は時期(翌年1月1日)、健康保険は喪失への備え(民間保険)、年金は任意(加入するかを自分で決める)——3つの制度は性質が違いますが、共通するのは出国前に手を打つ必要があることです。出国後にできる手続きは限られます。
私たちIYOU会計事務所は、代表・山本の100名を超えるマレーシア移住サポートの経験をもとに、移住の全体設計からマレーシア側の法人・会計、現地での生活の立ち上げまでをワンストップで支援しています。日本側の税務・社会保険についても、確認すべき窓口の整理や、提携する日本の税理士のご紹介までサポートしますので、日本側・マレーシア側の両面から移住の段取りを組み立てられます。マレーシア移住全体の段取り整理から一緒に進めたい方は、お問い合わせフォームからご相談ください。
参考(一次情報)
- 総務省「個人住民税」
- 日本年金機構「海外への転出/海外からの転入(海外在住の皆さま)」
- 日本年金機構「国民年金の任意加入の手続き(日本の年金制度への継続加入)」
- 日本年金機構「協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度」
- 東京都中央区「国外転出するときの個人住民税の手続き」
※本記事は2026年7月時点の公表情報に基づく一般的な制度解説であり、個別の税務・社会保険に関する助言ではありません。制度の詳細・最新の取扱いは各公的機関にご確認ください。
