マレーシア・クアラルンプールの会計事務所IYOUから、月に一度、会計士・海外移住コンサルタントが厳選した海外の情報をお届けします。創刊号は、マレーシアの躍進を示すランキングの読み解きから、6月に変わった就労ビザと運転免許の実務、日本の投資家に影響する最高裁判決まで。公的機関や現地報道の情報に、私たちが現地で見ている実務の景色を添えてお届けします。
なぜマレーシアは日本より上位なのか——世界競争力ランキング15位の中身

スイスのビジネススクールIMDが毎年発表する「世界競争力ランキング」の2026年版で、マレーシアは前年の23位から8つ順位を上げ、70カ国・地域中15位に入りました。近年で最高の順位です(IMD、2026年6月発表)。
このランキングは経済の「大きさ」ではなく、経済実績・政府効率・ビジネス効率・インフラの4分野で「国の実行力」を測るものです。マレーシアは4分野すべてで順位を上げました。
マレーシアの内訳:経済実績は世界4位/政府効率14位(11ランク上昇)/ビジネス効率16位(16ランク上昇)/インフラ33位(2ランク上昇)
背景として、投資認可手続きの簡素化、行政のデジタル化、財政管理の立て直しが評価されたと報じられています(The Edge Malaysia)。実際、この1〜2年はデータセンターや半導体など外資の大型投資のニュースが続いており、私たちが現地で日々感じている変化——外資誘致への本気度や、行政手続きのオンライン化——が、数字にも表れてきた印象です。
一方の日本は、前年の35位から30位に回復しました(ジェトロ)。5ランクの上昇で、悲観一色の結果ではありません。ただアジア・太平洋の中では10位にとどまります。世界順位では、1位のシンガポール、2位の香港、12位の中国、15位のマレーシアがいずれも日本(30位)より上位。4分野の中では、企業の生産性や機動力を問う「ビジネス効率」が70カ国・地域中49位と、引き続き日本の課題です。
順位そのものより、注目したいのは「この評価が何を動かすか」です。国際ランキングは、グローバル企業の進出判断や投資配分の参考資料として広く使われます。評価が上がった国には企業とお金が入り、雇用と人材が集まり、それがまた次の評価につながる——こうした循環が働くとすれば、マレーシアはその入口にいることになります。かつて「安い東南アジアの国」と見られていた国が、上位20カ国に入り、米国(10位)とも大きく離れない位置まで来ました。移住先・進出先としてのマレーシアを考えるうえでも、押さえておきたい変化です。
海外で投資する方は必見。外貨のまま株を買うと為替差益に課税——6月の最高裁判決

日本の個人投資家に影響の大きい司法判断が出ました。2026年6月16日、最高裁第三小法廷は、保有する外貨を別の外貨に交換した場合や、外貨のまま外国株などの外貨建て有価証券を購入した場合について、その時点で円換算の為替差益が生じていれば所得税の課税対象になるとする初めての判断を示しました。裁判官5人全員一致です(日本経済新聞)。
ポイントは「円に戻していなくても課税」という点です。
例:1ドル=100円のときに購入したドルを外貨預金に置き、1ドル=150円のときにそのドルで米国株を買う → 株を買った時点で、1ドルあたり50円の為替差益が「実現した」扱いになり、課税対象になります。
この差益は雑所得として給与などと合算して課税されるため、所得水準によっては住民税と合わせて最大55%の税率になり得ます(このほか復興特別所得税がかかります)。対象になりやすいのは、たとえば次のような取引です。
- 長く外貨預金に置いていたドルで、米国株や米ドル建て債券を買った
- 外貨建て債券・MMFの償還金を、円に戻さず別の外貨建て商品に乗り換えた
- ドルをユーロなど別の外貨に交換した
一方、円をドルに替えた直後に株式を購入した場合は、取得時までの為替の動きが小さいため、認識される差益も小さくなります。「外貨のまま長く持ち、動かす」スタイルの方ほど、申告実務に関わってくる判決といえます。
今月の小ネタ:F1が9年ぶりにセパンへ帰ってくる

今年10月2日〜4日、F1がセパン・インターナショナル・サーキットで開催されることが決まりました(中東情勢で延期になったバーレーンGPの代替開催として、F1とFIAが公式発表)。マレーシアでの開催は2017年を最後に途絶えていたので、実に9年ぶりの復活です。アンワル首相は「より多くの国民が観戦できるように」と低価格チケットの導入検討まで表明していて、国を挙げての歓迎ムード(MTown)。
セパンはクアラルンプール国際空港(KLIA)のすぐ隣、KL市内から車でおよそ1時間の場所にあります。日本からの観戦旅行も組みやすい立地で、KL在住の日本人の間でも早くも話題です。10月初旬のKLは、ホテルと航空券が早めに埋まりそうです。マレーシアの「国際イベントを取りに行く」姿勢は、特集で読み解いたランキング躍進とも重なって見えます。
在住者は要注意。6月に変わった就労ビザ(EP)のその後

2026年6月1日から、マレーシアの雇用パス(EP)の最低給与基準が大きく引き上げられ、就労期間の上限と、現地人材への引き継ぎ計画(サクセッションプラン)の提出義務が導入されました(KPMG)。新旧の基準は次のとおりです。
| 区分 | 月給(新基準) | 期間上限 | 引き継ぎ計画 |
|---|---|---|---|
| I | RM20,000以上 | 最長10年 | 不要 |
| II | RM10,000〜19,999 | 最長10年 | 必須 |
| III | RM5,000〜9,999 | 最長5年 | 必須 |
※旧基準:I=RM10,000以上/II=RM5,000〜9,999/III=RM3,000〜4,999。カテゴリーIIとIIIは、外国人材の担当業務を現地人材へ引き継ぐ計画(サクセッションプラン)の提出が必須になりました。
運用面で注意したいのは、経過措置がなく、6月1日以降の申請は更新も含めて新基準で審査される点です。いま持っているパスが有効期限まで使えることは変わりませんが、次の更新のタイミングで新しい給与基準を満たしている必要があります。「新規だけの話」ではなく、在住者の更新時に影響が顕在化しています。なお、ラブアン法人の就労許可は西マレーシアのEPとは別の枠組みで審査されており、最低給与の基準は月給RM10,000以上とされています(2026年7月末時点)。引き上げ後の西マレーシアEPに比べると、現時点では比較的緩やかに運用されているのが実務上の実感です。ラブアン法人でのビザ取得をお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。現地では6月にラブアン当局の申請システム刷新もあり、設立・ビザとも一時的に審査に時間を要していましたが、7月末時点では改善に向かっています。
PVIPはMM2Hプラチナに統合される?——富裕層向けの長期滞在ビザPVIP(プレミアムビザ・最長20年)について、当事務所が現地の移住実務の現場で耳にする範囲で、こんな噂が出ています。
結論からいえば、現時点で政府の公式発表はなく、あくまで噂の段階です(2026年7月末時点)。ただ、PVIPとMM2Hの最上位ティア(プラチナ)は対象層が重なるため、制度整理の観測が出やすい構図ではあります。
車を運転する方は要注意。免許の「12ヶ月ルール」
在マレーシア日本国大使館からの案内でも注意喚起されていますが、マレーシア道路交通局(JPJ)は、EPなど長期滞在ビザを持つ居住外国人が国際運転免許証で運転できる期間を「入国から12ヶ月以内」と明確にしました(ジェトロ、2026年7月)。しかも、日本の免許からマレーシア免許への「切り替え」制度は2025年5月に原則廃止されています。現時点の選択肢を整理すると、次のようになります。
- 入国から12ヶ月以内:国際運転免許証(日本の免許を携行)で運転できます
- 外交官・MM2H保持者など:例外として従来どおり切り替えが認められています(例外の詳しい範囲はJPJや大使館の最新案内でご確認ください)
- 12ヶ月を過ぎたら:マレーシアで学科試験→仮免許→実技教習(16時間以上)→実技試験と、現地の免許を取り直すのが原則です
これから移住される方は、最初の1年のうちに「車を運転する生活にするか、Grab(配車アプリ)中心で暮らすか」を決めておくのがおすすめです。KLの都心部は配車アプリだけでも十分暮らせます。
読者のみなさまへ
マレーシア移住や法人設立について、個別に相談したいことがある方には、無料のオンライン個別相談(Zoom・1時間・お一人さま1回)をご用意しています。
LINE公式アカウント「マレーシアなんでも相談室」では、マレーシアの暮らしや法人設立、ビザに関するご相談・ご質問を受け付けています。マレーシアの最新情報のお知らせも、こちらからお届けしています。お気軽に友だち追加してください。
創刊号をお読みいただき、ありがとうございました。このニュースレターは毎月1回、同じ構成でお届けします。「こんなテーマを読み解いてほしい」というリクエストも歓迎です。
※本ニュースレターは情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の勧誘や投資助言、個別の税務助言を行うものではありません。IYOU ACCOUNTING ADVISORY PLTはマレーシアの会計事務所であり、日本の税理士業務は行っていません。日本側の税務は、提携する国際税務に詳しい税理士と連携してサポートしています。本レターの情報に基づくご判断の結果について、当事務所は責任を負いかねます。制度・数字は執筆時点(2026年7月)の情報であり、今後変更される可能性があります。
出典
- IMD「World Competitiveness Ranking 2026」(2026年6月)
- The Edge Malaysia「Malaysia jumps eight spots to 15th in 2026 IMD World Competitiveness Ranking」(2026年6月18日)
- ジェトロ・ビジネス短信「2026年版IMD世界競争力ランキング」(2026年6月)
- 日本経済新聞「外国通貨間の交換、円換算で為替差益なら課税適法 最高裁判決」(2026年6月)
- KPMG「Malaysia – New Minimum Salary Thresholds and Employment Duration for Employment Passes」(2026年)
- ジェトロ・ビジネス短信「マレーシア道路交通局、居住外国人が国際免許証で運転可能な期間を明確化」(2026年7月15日)
- 在マレーシア日本国大使館「マレーシア道路交通局(JPJ)による外国運転免許の切替え停止」(2025年5月)
- 税務通信「最高裁 外国通貨取引の為替差益を巡り初の判断を示す」(2026年)
- Formula 1「Formula 1 and FIA confirm Malaysia will join 2026 calendar」(2026年7月)
- MTown「F1が9年ぶりにマレーシア復活へ セパンで「バーレーンGP」代替開催」(2026年7月27日)
